不動産PM(Property Management/プロパティマネジメント)へ配属された直後、最初に任されることがある業務の一つが法定点検です。
初めて任された仕事がたまたま法定点検のしきりでしたが、点検日当日に現地へ行けば終わる仕事ではありませんでした。貸室内へ入る場合は、テナントへの事前案内、入室承諾、在室・鍵・立会いの確認が必要です。点検業者へテナントの希望を伝え、当日の巡回順を調整し、終了後は指摘事項の是正まで追いかけます。
この記事では、店舗・事務所物件のPM実務を経験した立場から、未点検や当日のトラブルを防ぐための進め方を時系列で整理します。
この記事は、次のような方に向けています。
- 初めて法定点検を担当する新人・若手PM
- テナントへの案内や入室承諾の取り方に迷っている方
- 当日の未点検や、点検後の是正漏れを防ぎたい方
点検当日に現地へ行けばよいと思っていました。約1週間前になって初めて、テナントへの事前連絡、スケジュール調整、入室承諾などが必要だと知りました。
PM配属直後の実務記録
PMが関わる主な法定点検
PMが担当物件で関わる点検には、次のようなものがあります。
- 消防用設備等の点検
- 特定建築物の定期調査
- 建築設備の定期検査
- 防火設備・昇降機等の定期検査
消防用設備等の点検では、消火器、誘導灯、自動火災報知設備、スプリンクラーなどを確認します。東京消防庁の案内では、機器点検は6か月に1回、総合点検は1年に1回とされ、消防署への報告周期は建物用途により1年(または3年)です。
建築基準法上の定期報告制度では、建築物、建築設備、防火設備、昇降機等について、対象となる所有者・管理者が資格者による調査・検査を行い、特定行政庁へ報告します。対象や報告時期は建物の用途・規模・所在地によって異なるため、過去の報告書と所管行政庁の案内を確認します。
注意:この記事は点検制度の網羅的な法令解説ではなく、PMが点検を確実に実施するための運用手順を扱います。対象、資格者、点検・報告周期は、物件ごとに所管行政庁、消防署、専門業者へ確認してください。
最初に確認する5つの情報
過去の報告書と未是正事項
前回の点検報告書を確認し、対象設備、点検範囲、指摘事項、未是正事項を把握します。前回入室できなかった区画や、毎回指摘される箇所があれば、今回の準備へ反映します。
関係者と役割分担
- オーナー・AM
- PM担当者
- BM担当者
- 点検業者・資格者
- テナント本社担当者
- 店舗責任者・現場担当者
「業者が点検するからPMは立ち会うだけ」と考えると、いろいろな調整が抜けてしまいます。誰がテナントへ連絡し、誰が鍵を管理し、誰が当日の順序を決め、誰が指摘事項を報告するかを明確にします。
テナントの連絡経路
商業テナントでは、本社担当者へ伝えても店舗へ届かないことがあり注意が必要です。また、店舗へ電話しても、応対したアルバイト従業員から責任者へ正確に伝わるとは限りません。
本社担当者、店舗責任者、当日の現場担当者を分け、誰が入室を承諾できるのか、当日の現地での対応ができるのか、誰から誰へ情報が流れるのかを確認します。
入室・鍵・立会いの条件
- 点検時間に在室するか
- テナント自身が立ち会うか
- 不在時に管理側が開錠してよいか
- 鍵は誰がどこで管理しているか
- 警備解除等の手続が必要か
- 入室できない場所や時間帯があるか
点検範囲と所要時間
点検業者へ、貸室内で何を確認し、各室にどの程度の時間がかかるかを確認します。「午前中に点検します」だけではテナントが予定を組めません。可能な範囲で巡回順と到着時刻の目安を出します。
法定点検を1か月前から組み立てる
約1か月前:最初の案内と条件確認
- 点検日時と入室の必要性を案内する
- テナントの営業予定・不在時間を確認する
- 立会い希望と管理側入室の可否を確認する
- 責任者と当日の連絡先を確認する
- 点検業者へテナント条件を共有する
口頭連絡だけにせず、案内通知書やメールを残します。後から「聞いていない」とならないよう、送付日、送付先、回答内容を記録します。
実務で厄介だったのは、「本社には伝わっているが店舗は知らない」という状態でした。送信済みのメールがあるだけでは、当日入室できるとは限りません。店舗責任者まで伝わったか、当日の担当者が理解しているかまで確認します。
約1週間前:未回答と未確定事項をつぶす
- 未回答テナントへ再連絡する
- 不在区画の開錠方法を確定する
- 当日の巡回順を点検業者と調整する
- 現地掲示物を準備・掲示する
- BM担当者と鍵・警備・立会いを確認する
この段階で「誰が対応するか分からない区画」を残さないことが重要です。本社から店舗へ伝達する会社でも、現場担当者へ実際に届いているかを確認します。
前日:最終リマインド
- テナントへ実施日時を再通知する
- 当日の在室者・連絡先を確認する
- 鍵と開錠担当者を確認する
- 点検業者の集合時間・連絡先を確認する
- 巡回表とテナント要望を共有する
点検前にテナントへ伝えること
- 点検の名称と目的
- 実施日と時間帯
- 貸室内へ入る理由
- 所要時間の目安
- 立会い・不在時入室の扱い
- 当日の連絡先
加えて、点検で指摘されやすい状態を事前に案内します。
- 避難経路や扉の前へ物を置かない
- 消火器を所定位置から動かさない
- 非常ベル等の前を塞がない
- 感知器を外したり、養生で覆ったりしない
点検日を知らせるだけでなく、事前に是正できるものを直してもらうことで、当日の指摘と再対応を減らせます。
点検当日にPMが行うこと
- 点検業者、BM担当者、鍵、巡回表を確認する
- テナントへ到着を伝え、入室承諾を再確認する
- テナント要望に応じて巡回順を調整する
- 入室できなかった区画と理由をその場で記録する
- 点検中に判明した不具合・指摘を確認する
- 全区画の実施状況を照合してから解散する
PMの役割は、単なる立会いだけではなく、テナントと点検業者の条件を集約し、点検対象をできる限り漏れなく実施できるよう、工程をコントロールすることです。
当日は予定どおりに進まない前提で動いていき、来店客の対応で入室を少し遅らせたい店舗があれば、別区画を先に回し、その間に再調整します。巡回表は作らなくてもいいのですが、全区画を終えるための判断材料です。
点検後は指摘事項を是正まで追う
- 実施区画・未実施区画を確定する
- 報告書と指摘事項を確認する
- 緊急性・法令上の重要性・営業影響で優先順位を付ける
- 是正方法、費用、担当、期限を決める
- オーナー・AMへ事実と対応案を報告する
- 完了資料・写真・再点検結果を保存する
「点検を実施した」で終わらせず、指摘が解消されたことを確認して完了です。過去の報告書、見積書、発注記録、完了写真をひも付けておくと、次回点検や売買時の資料確認にも対応しやすくなります。
新人PMが失敗しやすいポイント
| 失敗 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 本社へ伝えたのに店舗が知らない | 伝達経路を確認していない | 本社・店舗責任者・当日担当者を分けて確認する |
| 当日、貸室へ入れない | 在室・鍵・入室承諾が未確定 | 1か月前から確認し、1週間前と前日に再確認する |
| テナントから突然の入室だと抗議される | 口頭連絡だけで記録がない | メール・通知書・掲示を併用し、回答を残す |
| 点検業者がテナント希望を把握していない | 条件を集約していない | 巡回表へ希望時間と注意事項を記載する |
| 指摘事項が放置される | 担当・期限・完了条件がない | 是正管理表で完了まで追う |
法定点検は物件理解と関係構築の機会になる
法定点検の調整では、テナントの営業状態、責任者、連絡経路、鍵、設備、過去の指摘を確認します。これは義務対応だけでなく、担当物件を理解する機会でもあります。
私自身、十分な引継ぎがない状態で法定点検を任され、点検直前になってテナントへの事前連絡が必要だと知りスムーズにいかないことも多くありいろいろ苦労もありました。その後は、くどいですが約1か月前の案内、1週間前の再確認、前日のリマインド、書面送付、現地掲示を組み合わせる運用へ変えました。
この経験から、PMの仕事は点検業者へ依頼することではなく、関係者・権限・伝達経路を把握し、未実施と認識違いを防ぐ仕組みを作ることだと考えています。
まとめ
法定点検を確実に実施するには、点検制度の知識だけでなく、テナント連絡、入室承諾、鍵、立会い、巡回順、業者管理を事前に組み立てる必要があります。
新人PMは、まず過去の報告書、関係者、連絡経路、入室条件、年間予定を確認してください。約1か月前から準備し、点検後は指摘事項の是正まで追うことで、未点検と当日のトラブルを減らせます。
PMの役割全体と、AM・BM・LMとの違いは「プロパティマネジメント(PM)の仕事内容とは?きつい理由と実務で身につく力」で解説しています。

