仕入担当として仲介会社と話すと、早い段階で次のように聞かれます。
どのような物件を買っていますか。
この質問に対して「一都三県で幅広く検討しています」「条件がよければ何でも買います」と答えても、相手は何を紹介すればよいのか判断できません。
一方、社内資料に書かれたエリア、価格、利回り、築年数などを細かく読み上げても、自社が本当に欲しい物件は伝わりません。
仕入担当者が最初に理解すべきなのは、数字の暗記ではなく、自社が何を買い、取得後に何をして収益をつくる会社なのかという考え方です。
この記事では、取得クライテリアの基本的な構成と確認方法を整理します。最終的な目標は、自社の取得方針を自分の言葉で説明できるようになることです。
取得クライテリアとは
取得クライテリアとは、平たく言えば「購入基準」であり、自社が取得を検討できる不動産の条件と判断基準です。「取得基準」「投資基準」と呼ばれることもあります。
一般的な取得クライテリアには、次のような項目が明示、非明示を問わず、複合的に含まれます。
- 対象となる物件・用途
- 対象エリア
- 価格帯
- 利回りや収益性
- 築年数・構造
- 駅距離
- 土地・建物の規模
- 権利関係
- 検討できない条件
ただし、取得クライテリアは条件表そのものではありません。
例えば、同じ空室のあるビルでも、空室を埋めるリーシング力がある会社にとっては、取得後に収益を伸ばせる物件です。取得直後から安定収入を求める会社にとっては、同じ空室がリスクになります。
周辺相場より賃料が低い物件も同様です。中長期で保有し、契約更新やテナント入替えを通じて賃料を改善できる会社なら、レントギャップ(今の賃料と改善した後の賃料の差)は取得理由になります。一方、短期間での再販を想定する場合は、改善に必要な時間を確保できない可能性があります。
つまり、物件の状態だけで「良い・悪い」がただちに決まるわけではありません。
取得後に何をするかによって、取得したい物件の条件が決まります。
最初に理解する5つの項目
取得クライテリアは、まず次の5項目に分けると理解しやすくなります。
A|何を買うのか
最初に、対象となる不動産の種類を確認します。
- 一棟収益ビル
- 店舗・事務所ビル
- 賃貸住宅
- ホテル
- 開発用地
- 区分所有
- 底地・借地権付き建物
同じ一棟収益物件でも、店舗、事務所、住宅では確認すべき内容が異なります。商業系であれば人の流れ、視認性、間口、用途制限、テナント構成などが重要です。住宅であれば間取り、設備、住環境、入居者層などの比重が高くなります。
「一棟物なら何でもよい」と広く捉えず、自社が得意とする用途と、その理由まで確認します。そして、それは会社によって明示的であるとは限らないので会社の事業理解や部署や決裁者の選好も把握することが大事です。
B|どこで買うのか
対象エリアは、都道府県や市区だけで判断するものではありません。
同じ駅でも、出口、商圏、通り、人の流れによって評価は変わります。駅から近くても主要な動線から外れていれば、店舗や事務所の募集で苦戦することがあります。
最低限、次の観点を確認します。
- 対象となる都道府県・市区
- 重視する沿線や駅
- 駅の利用者数と商圏
- 駅から物件までの動線
- 視認性と接道状況
- 周辺の店舗・オフィス需要
「駅徒歩5分以内」という数字だけではなく、どのような立地なら取得後の運用が成り立つのかを理解する必要があります。
C|いくらで買うのか
価格については、単純な上限額だけでなく、次の3段階で把握します。
①通常、最も検討しやすい価格帯
②条件がよければ検討できる上限
③小さすぎるため取り組みにくい下限
会社によっては、価格帯により決裁者、資金調達、求める収益性が変わります。価格が高くなるほど難しくなるとは限らず、一定規模を下回ると取得に必要な手間に対して利益が小さくなる場合もあります。
また、売買価格だけでなく、土地単価、一種単価、収益価格、再調達価格など、社内で重視する指標も確認します。
D|どのような状態なら買うのか
取得時点の物件状態も重要です。
- 満室か、空室があるか
- 現行賃料と周辺相場に差があるか
- 普通借家か、定期借家か
- 滞納やテナントトラブルがあるか
- 修繕が必要か
- 遵法性に問題があるか
- 容積率を消化しているか
ここで重要なのは、問題の有無だけではありません。
その問題が、取得後に改善できるものかを考えます。空室であっても、立地、間口、エレベーター、貸室形状などの商品性がよければ、リーシングによって改善できる可能性があります。反対に、動線から外れ、間口が狭く、上階へのアクセスも弱い物件は、募集条件を変更しても改善しにくい場合があります。
取得クライテリアを理解するには、許容できる問題と、解決が難しい問題を区別することが必要です。
E|買った後に何をするのか
取得後の事業計画は、クライテリアの中心です。取得目的が、再販(転売)なのか、保有なのか、開発なのか、といったところもおさえます。
主な取得シナリオには、次のようなものがあります。
- 中長期保有
- 空室のリーシング
- 賃料増額・テナント入替え
- 修繕・遵法性の改善
- 建替え
- 再開発・開発
- 短中期での再販
- 借地や権利関係の整理
例えば、「中長期で保有し、空室を埋め、賃料を改善してNOIを高める」という方針なら、満室で完成された物件だけが対象ではありません。空室や低賃料が、取得後の収益向上余地になります。
このように、何を買うかと、買った後に何をするかは一体で考えます。
社内で確認すべき質問
取得基準がある場合はしっかりと読み込んで腹落ちできるように落とし込んでいく必要があります。取得基準表を読んでも分からない部分は、上司や先輩へ具体的に確認すると良いと思います。なかなか聞けない、聞きづらいということや聞いても感覚的な返事ではっきりしないということも多いと思います。トップ営業ほど現場で鍛えられて理屈より感覚的な人が多い業界です。そういう場合は質問の仕方や聞き方を工夫する必要があります。
「取得クライテリアを教えてください」と広く聞くと、「資料に書いてある」とか「案件によるな」といった回答になりがちです。細かい聞き方のフレーズとか言い回しなんかはまた別の機会にも整理しようかと思いますが、質問を項目別に分けると、実務で使える回答を得やすくなります。
A|対象物件について
- 店舗、事務所、住宅のうち、どれを優先しているか
- 一棟物以外も検討するか
- 所有権以外の権利関係、持分や借地でも検討できるか
- 構造や築年数に明確な制限を設けているか
- 検討しない用途と、その理由は何か
B|立地について
- 最近、特に取得したい駅やエリアはどこか
- 過去に取得した立地の共通点は何か
- 駅に近くても検討しない場所はあるか
- 乗降客数、動線、視認性のうち何を重視するか
- どの条件を下回ると検討しにくくなるか
C|価格と収益性について
- 最も検討しやすい価格帯はいくらか
- 上限・下限はどの程度か
- 価格帯によって決裁や資金調達はどう変わるか
- 利回り以外に重視する指標は何か
- 取得時と安定稼働後で、どの収益性を見るか
D|物件状態について
- 満室と空室では、どちらを検討しやすいか
- 空室を許容できる条件は何か
- 低賃料、滞納、修繕不足をどこまで扱えるか
- 普通借家と定期借家をどう評価するか
- 必ず見送る条件があるとしたら何か
E|取得後の運用について
- 基本的な保有期間はどの程度か
- 賃料改善、リーシング、建替えのうち何を得意とするか
- 取得後に必要な投資額をどう見込むか
- 最終的に誰へ売却することを想定しているか
一度にすべて確認する必要はありません。ここにあるのも一例でほかにも挙げようとすればもっと出てきます。案件を見るたびに「この条件ならどう考えるのか」と質問し、その回答を自分のなかのクライテリアメモに追加していきます。
取得案件と見送り案件を比較する
取得クライテリアを早く理解するためには、実際の案件を比較する方法が有効です。まだ自分の案件がなかったり情報を集められていない場合、会社には過去の事例が蓄積されているはずなので過去の案件から分析します。
まず、次の3件を確認します。
①直近で取得できた案件
②検討したが見送った案件
③情報を受けて早期に見送った案件
それぞれについて、一例ですが、次のような項目を整理してみます。
| 確認項目 | 取得案件 | 最後まで検討した案件 | 早期見送り案件 |
|---|---|---|---|
| 最初に評価した点 | |||
| 取得後に行う予定だったこと | |||
| 最大のネック | |||
| 最終判断の決め手 | |||
| 何が変われば再検討できるか |
取得案件だけを見ると、結果として買った物件の特徴しか分かりません。見送り案件と比較することで、どの問題は許容でき、どの問題で検討を止めるのかが見えてきます。
例えば、空室そのものは許容できても、マンション・アパートなら周辺の環境が生活に適さないとか、ビルならエレベーターなし、入口が分かりにくいとかいった場合は、賃料を下げても埋まりにくいと判断されることがあります。
一方、現況で空室があっても、駅からの動線上にあり、視認性がよく、募集賃料にも改善余地があるなら、空室がむしろ取得の好機になることがあります。
こうした差が、資料だけでは分からない自社の実質的な取得クライテリアです。
仲介会社へ伝える1分説明
社内で確認した内容を、すべて社外へ説明する必要はありません。仲介会社がわたしたちに紹介案件を選べる程度に要点をまとめます。つまるところ、仲介会社が「この物件はこの人だ」と思えることが最重要です。
説明は、次の順番にすると整理しやすくなります。
①何を買う会社か
②主なエリアと価格帯
③取得後に何をするか(取得目的)
④特に検討しやすい物件の状態
⑤最近の取得・検討事例
A|説明例
当社は、住居/店舗/事務所が入る一棟収益ビルを中心に、自社で取得しています。主な対象エリアと価格帯は〇〇です。取得後は中長期で保有し、空室のリーシングや賃料改善を行います。そのため、満室の物件だけでなく、空室がある物件や、長期間賃料が見直されていない物件も検討できます。最近は〇〇駅周辺で、同規模の案件を検討しました。
重要なことは、検討範囲を広く見せることではありません。
仲介担当者が物件概要を見たときに、「この物件はこの会社なら相談できそうだ」と判断できるように情報を渡すことです。具体的な数値や社外へ開示できる範囲は、あらかじめ社内で確認します。
分からない条件はその場で決めない
経験が浅いうちは、仲介会社からの質問にすぐ答えられないことがあります。その場を取り繕うために、推測で回答してはいけません。うまくトークでかわしたいところですが、最初で難しい場合は次のように回答して、社内へ持ち帰ります。
その条件は検討事例が少ないため、社内で確認して改めて回答します。
基本的には対象外ですが、案件の特徴を確認したうえで社内に相談します。
通常より大きい価格帯ですが、立地と事業計画によるため、まず概要を拝見させてください。
分からないことを持ち帰るのは問題ではありません。問題なのは、いいかげんな返答になったり受けた質問と社内回答を記録せず、次回も同じ質問に答えられないことです。
確認した内容はクライテリアメモへ追加します。また、取得クライテリアは、予算、取得実績、組織体制、市況によって変わるため、定期的な更新も必要です。
取得クライテリアの確認チェックリスト
- 何を買う会社か説明できる
- 対象エリアを地名・駅名・立地特性で説明できる
- 最も検討しやすい価格帯を把握している
- 取得後の事業計画を説明できる
- 空室、低賃料、古い契約をどう評価するか理解している
- 最近の取得案件を1件説明できる
- 最後まで検討した見送り案件を1件説明できる
- 早期に見送る条件と理由を把握している
- 取得クライテリアを1分程度で説明できる
- 分からない質問を記録し、社内で確認している
まとめ
取得クライテリアは、たんなる条件の一覧表で覚えるというものではありません。
「何を、どこで、いくらで、どのような状態で買い、取得後に何をするのか」を全体像をつなげてできるだけ解像度高く理解することが重要です。
最初からさまざまな例外に答えられる必要はありません。まずは、通常検討する案件、明確に対象外となる案件、社内確認が必要な案件を区別できる状態を目指します。
自社の取得クライテリアを自分の言葉で説明できるようになると、仲介会社へ伝える内容が具体的になり、紹介される案件の精度も上がります。
次の記事では、物件情報がどこから来るのか、初心者が最初に押さえるべき情報ルートを整理します。


