物件情報が届くたびに詳細な収支を作り、すべての資料を読み込んでいては、検討時間が足りなくなります。
一次検討の目的は、短時間で正確な価格を算出することではありません。
自社で取り組める可能性がある案件を残し、明確に合わない案件を早期に分けることです。
商業系の事業用不動産では、住所と地図を確認した段階で見送りになる案件も少なくありません。価格が魅力的に見えても、動線、視認性、間口、上階へのアクセスなど、取得後に変えにくい条件が弱ければ、収益改善が難しい場合があります。
この記事では、住所、地図、駅の利用状況、現地画像、建物、価格の順に、一次検討を進める方法を解説します。
一次検討の役割
一次検討は、詳細なデューデリジェンスではありません。
限られた情報から、次の3つに分類する作業です。
①詳細検討へ進む
②追加情報を確認して判断する
③早期に見送る
この段階では、すべてのリスクを特定する必要はありません。自社の取得クライテリアと照らし、事業計画が成立する可能性があるかを確認します。
判断順序を固定すると、案件ごとの見方が安定します。
住所
→ 地図
→ 駅・商圏
→ 動線・現地画像
→ 建物商品性
→ 価格
価格から見始めると、数字を成立させるために立地や建物の弱点を軽く評価することがあります。最初に、取得後には変えにくい条件から確認します。
住所から検討エリアを確認する
所在地を確認したら、まず自社の対象エリアに入るかを判断します。
A|最寄駅と距離
- 最寄駅はどこか
- 徒歩何分か
- どの出口を使うか
- 複数駅・複数路線を利用できるか
- 駅から物件まで高低差や大きな道路があるか
徒歩分数だけでは、立地の強さは分かりません。同じ徒歩5分でも、繁華街へ向かう動線上と、主要動線から外れた裏側では評価が変わります。
B|街と商圏の性格
- オフィス街、繁華街、住宅地のどれか
- 平日と休日のどちらが強いか
- 昼と夜で人の流れが変わるか
- 来街者、就業者、居住者の誰が利用するか
- 再開発や大型施設の影響があるか
自社が想定するテナントと、街を利用する人が合っているかを確認します。
C|用途地域と周辺利用
地図や自治体の公開情報から、用途地域、容積率、建ぺい率なども確認します。
一次検討では詳細な法令調査までは行いませんが、想定用途が立地と規制に合うか、建替えや増床に明らかな制約がないかを見ます。
地図で人の流れを読む
地図では、駅と物件を直線で結ぶだけでは不十分です。
A|主要な目的地を確認する
- 商店街
- 駅前広場
- 大型商業施設
- オフィス集積
- 学校・病院・公共施設
- 観光地・娯楽施設
人がどこから来て、どこへ向かうのかを考えます。物件がその途中にあるのか、目的地の裏側にあるのかで通行量は変わります。
B|駅の出口と動線を確認する
駅の利用者数が多くても、すべての出口へ均等に人が流れるわけではありません。
- 主要改札と出口
- 駅から目的地までの経路
- 大通り、横断歩道、歩道橋
- 線路、河川、幹線道路による分断
- アーケードや地下道
物件までの実際の歩行経路を確認します。
C|競合と周辺テナントを見る
周辺の募集物件や入居テナントも確認します。
- 1階にどの業種が入っているか
- 上階に事務所、サービス店舗、飲食店があるか
- 空室や閉店が目立たないか
- 同規模ビルの募集賃料はいくらか
- 新築・再開発の供給があるか
競合が多いこと自体が悪いわけではありません。テナント需要が集まるエリアか、供給過多で空室が多いエリアかを区別します。
駅の利用状況を確認する
駅の乗降客数は、商圏の大きさを把握する一つの指標です。ただし、人数だけで取得判断はできません。
A|乗降客数の意味
確認する際は、次の点に注意します。
- 単一路線か、乗換駅か
- 改札外へ出る利用者が多いか
- 平日型か、休日型か
- 定期利用と定期外利用の構成
- 複数の鉄道会社で集計が分かれていないか
乗換客を多く含む駅では、数字が大きくても街へ出る人が少ない場合があります。反対に、乗降客数が中規模でも、駅前に商業機能が集中し、対象テナントとの相性がよい場合があります。
B|自社基準との比較
自社で過去に取得・検討した物件と比較します。
- どの程度の駅規模を対象としてきたか
- 同じ利用者数でも買えた駅と見送った駅の違いは何か
- 駅規模が小さくても検討できる例外は何か
- 駅前以外の商圏で成立した事例はあるか
絶対的な基準だけでなく、自社の実績と比較することで判断の精度が上がります。
現地画像で変えにくい条件を見る
地図で候補に残ったら、ストリートビューや掲載写真で建物と周辺を確認します。
A|視認性と間口
- 道路から建物が見えるか
- ファサードの間口が確保されているか
- 看板を設置できるか
- 入口が分かりやすいか
- 街路樹、歩道橋、隣接建物で隠れていないか
店舗系では、通行量が多くても入口が見えなければ、テナント評価が下がる場合があります。
B|接道と前面道路
- どの道路に接しているか
- 車両の進入・荷捌きができるか
- 歩道があるか
- 一方通行や時間規制があるか
- 飲食店の排気・ごみ搬出が可能か
前面道路の性格は、利用できるテナント業種にも影響します。
C|周辺との連続性
- 隣接店舗と人の流れが連続しているか
- 物件の手前で人が曲がっていないか
- 物件だけが奥まっていないか
- 夜間の明るさや営業店舗はどうか
同じ通りでも、数十メートルの違いで人の流れが変わることがあります。
建物の商品性を確認する
次に、取得後のリーシングや賃料改善に影響する建物条件を確認します。
A|1階店舗
- 間口と奥行き
- 天井高
- 飲食利用の可否
- 排気・給排水・ガス
- 搬入経路
- 前面の看板スペース
1階店舗が物件収益の中心になる場合、単に入居中かどうかではなく、将来どの業種へ貸せるかを考えます。
B|上階へのアクセス
- エレベーターの有無
- 入口の位置と分かりやすさ
- 階段の幅と印象
- 1階店舗と上階入口が分離しているか
- 看板・案内板を設置できるか
エレベーターのない上階、入口の分かりにくい建物、主要動線から外れた物件は、賃料を下げても募集が長期化することがあります。
C|貸室形状と利用可能性
- 1フロアの面積
- 分割・一括利用のしやすさ
- 柱、窓、採光
- トイレ・給湯・空調
- 避難経路
- 想定するテナント業種
空室があること自体ではなく、その空室を誰へ、いくらで、どの程度の期間で貸せるかを考えます。
価格を簡易計算する
立地と建物が対象に残った後、価格を確認します。
A|土地単価
土地単価は、土地価格または売買価格を土地面積で割った指標です。
土地単価 = 対象価格 ÷ 土地面積
建物価値を含む一棟物の売買価格をそのまま土地面積で割る場合は、純粋な土地価格ではない点に注意します。周辺の土地取引や路線価、公示地価などと比較するための簡易指標として使います。
B|一種単価
一種単価は、土地価格を法定容積率に基づく延床可能面積で割った指標です。
一種単価 = 土地価格 ÷(土地面積 × 法定容積率)
容積率は小数で計算します。例えば400%なら4.0です。
実際に利用できる容積率は、前面道路幅員、斜線制限、地区計画、形状などで法定容積率より小さくなる場合があります。一次検討では概算とし、詳細検討で建築可能ボリュームを確認します。
C|現況収益と満室想定
- 現況年間賃料
- 満室想定賃料
- 空室部分の想定賃料
- 運営費
- NOI(Net Operating Income/純営業収益)
この段階では精密な収支を作らず、売主想定と自社想定の差が大きくないかを確認します。
一次検討の結論を記録する
判断は、次の3つに分類します。
A|詳細検討へ進む
- 立地が取得対象に合う
- 取得後の改善余地がある
- 建物商品性に致命的な弱点がない
- 価格が検討可能な範囲にある
追加資料を受け取り、収支作成や現地調査へ進みます。
B|追加情報を確認する
- 空室の募集条件が不明
- エレベーターや設備の状況が分からない
- 賃貸借契約の内容で評価が変わる
- 価格の前提となる収入が一致しない
何が分かれば結論を出せるかを明確にして質問します。
C|早期に見送る
- 自社の対象エリア・用途から外れる
- 人の流れと物件位置が合わない
- 視認性・間口・上階動線などを改善しにくい
- 建物商品性に対して価格が高い
- 取得後の事業シナリオを描けない
見送り理由は「立地が悪い」「数字が合わない」だけでなく、具体的な要因を記録します。
一次検討チェックリスト
- 自社の対象エリア・用途に入る
- 最寄駅、出口、徒歩経路を確認した
- 街と商圏の性格を確認した
- 主要な人の流れを地図上で確認した
- 駅の利用状況と商圏の関係を確認した
- 現地画像で視認性・間口・入口を確認した
- 1階店舗と上階を分けて評価した
- エレベーターと上階動線を確認した
- 土地単価・一種単価を概算した
- 現況収益と満室想定を確認した
- 継続・追加確認・見送りの理由を記録した
まとめ
一次検討では、最初から精密な収支を作る必要はありません。
住所、地図、駅・商圏、動線、現地画像、建物商品性、価格の順に確認し、取得後に変えにくい条件から判断します。
商業系の事業用不動産では、駅距離だけでなく、人の流れ、視認性、間口、1階店舗の利用可能性、上階へのアクセスが重要です。数字が合うように見えても、リーシングの前提が弱ければ収益改善は難しくなります。
一次検討の結論は、詳細検討、追加確認、早期見送りの3つに分け、理由を記録します。この積み重ねが、自社の取得クライテリアと担当者自身の判断精度を高めます。
ここまでで「仕入れ営業の基礎編」は一区切りです。次の「物件評価編」では、現地調査、収支検証、レントロール、デューデリジェンスへ進みます。


