レントロールは、賃貸中の区画、テナント名、面積、賃料などをまとめた資料です。
物件価格や表面利回りを確認する際、多くの人は月額賃料と年間収入へ最初に目を向けます。しかし、同じ年間収入でも、その安定性は物件ごとに異なります。
契約終了が近いテナント、相場より高い賃料、長期空室、特定テナントへの収入集中、解約しやすい契約。これらを確認せず、現在の賃料がそのまま続く前提で収支を作ると、取得後に計画が崩れる可能性があります。
レントロールを読む目的は、合計賃料を転記することではありません。漫然と読むのではなく現在の収入が、どの契約とテナントによって成り立ち、今後も続く可能性があるかを確認することです。
レントロールで確認する基本項目
レントロールの様式は案件ごとに異なります。まず、次の項目が記載されているか確認します。
- 区画・階数
- テナント名・用途(与信、業態など)
- 契約面積
- 契約開始日・終了日
- 契約形態
- 月額賃料
- 共益費
- その他収入(駐車場代、看板料)
- 賃料単価
- 敷金・保証金
- 自動更新特約の有無、解約条件
- フリーレントの有無、期間
- 滞納の有無
- 空室区画
記載がない項目は、分からないままゼロとして扱わず、確認事項として残します。
まず合計が合うか確認する
前提として細部を見る前に、レントロール内部の数字が整合しているか確認します。
A|月額と年額
年間賃料収入 = 月額賃料収入 × 12
ただし、フリーレント、段階賃料、更新時の改定、解約予定などがある場合、単純に12倍できないことがありますが初期的にはあまり気にせずです。
B|面積と賃料単価
賃料単価 = 月額賃料 ÷ 契約面積
坪単価で比較する場合は、面積の単位が平方メートルか坪かを確認します。賃料に共益費を含むかどうかも統一します。
C|賃料と入金
レントロールは契約上の賃料を示す資料であり、実際の入金を保証するものではありません。
可能であれば、入金明細、滞納一覧、請求データなどと照合します。数字が一致しない場合は、未収、相殺、フリーレント、請求時期などの理由を確認します。もっとも注意すべきは消費税が込みになっていないかです。利回りをよくするために税込み表記の数値になっていることがあります。
区画ごとの賃料を比較する
合計額だけでは、物件の収益構造は見えません。
A|館内比較
- 1階と上階
- 路面区画と奥区画
- 大区画と小区画
- 新規契約と長期契約
- 同用途の区画
同じ建物内で賃料差が大きい場合、立地条件、契約時期、工事負担、関係性などに理由があるかを確認します。
B|市場賃料との比較
現行賃料を周辺の募集事例や成約事例と比較します。
- 現行賃料が相場より低い
- 現行賃料が相場並み
- 現行賃料が相場より高い
相場より低い賃料は増額余地に見えますが、すぐに改定できるとは限りません。反対に、相場より高い賃料は優良に見えても、退去後に同水準で再募集できない可能性があります。
C|賃料差の理由
賃料差を見つけたら、次を確認します。
- 契約時期
- 契約期間
- 定期借家か普通借家か
- 内装・設備工事の負担者
- フリーレントや協力金
- 用途と営業時間
- 区画の視認性・導線
単価だけを見て「安いから上げられる」「高いから安全」と判断しないことが重要です。
契約期間と解約条件を見る
A|契約開始日と入居期間
長期入居は安定材料になり得ますが、必ずしも退去リスクが低いとは限りません。
- 長期間、賃料改定がない
- 設備や内装が老朽化している
- テナントの事業環境が変化している
- 退去時の原状回復負担が大きい
長期入居の理由と、今後も継続する条件を確認します。
B|契約終了日
取得直後に契約終了や更新時期が集中していないか確認します。
複数テナントの契約終了が同時期に重なると、更新交渉や退去が収支へまとめて影響する可能性があります。
C|中途解約
- 解約予告期間
- 中途解約の可否
- 違約金
- 定期借家契約の再契約条件
- 特約による例外
契約期間が長くても、中途解約が容易であれば、契約満了までの収入を確定収入として扱うことはできません。
テナント構成と集中リスクを見る
A|収入の集中
特定テナントが賃料収入の大部分を占める場合、その退去が物件全体へ大きく影響します。
テナント別収入比率 = 当該テナントの年間賃料 ÷ 物件全体の年間賃料
面積比率だけでなく、賃料収入に占める割合も確認します。
B|業種の集中
- 飲食
- 物販
- サービス店舗
- オフィス
- 医療
- 教育
同じ業種へ偏ると、特定の市場環境や規制変更の影響を受けやすくなります。一方で、建物が特定用途に最適化され、競争力を持つ場合もあります。
C|信用力と営業実態
テナント名だけで信用力を決めず、法人情報、事業内容、店舗の営業状況、支払履歴などを確認します。
テナントの信用調査は、公開情報だけで結論を出さず、売主から提供される資料や契約関係資料と合わせて行います。
空室を読む
空室は、将来の増収余地にも、長期的な損失にもなります。
A|空室期間
- いつから空いているか
- 退去理由は何か
- これまでの募集条件
- 内見件数と反応
- 申込みが入らない理由
長期空室を、満室想定賃料で簡単に埋めないことが重要です。
B|募集条件
- 募集賃料
- 共益費
- 敷金・保証金
- 礼金
- フリーレント
- 仲介手数料・広告料
- 内装や設備の引渡し条件
成約に必要な条件を収支へ反映します。
C|区画の商品性
現地調査の結果と合わせて、間口、入口、エレベーター、貸室形状、設備、看板、用途制限を確認します。
空室の評価は、レントロールだけでは完結しません。
敷金・保証金を確認する
敷金・保証金は、単に金額を確認するだけでは足りません。
- 契約書上の金額
- 実際の預り残高
- 償却条件
- 返還時期
- 未収賃料との相殺
- 売買時の承継方法
契約書、残高資料、会計資料の数字が一致するか確認します。
レントロールと契約書を照合する
レントロールは一覧性に優れますが、契約条件の根拠は賃貸借契約書や覚書です。
特に次の項目は、契約書等で確認します。
①契約当事者
②契約面積・対象区画
③賃料・共益費・消費税
④契約期間
⑤更新・再契約
⑥中途解約
⑦敷金・保証金・償却
⑧原状回復
⑨修繕・設備負担
⑩転貸・譲渡・用途
レントロールと契約書に差がある場合は、どちらかへ都合よく合わせず、変更覚書や実際の運用を確認します。
将来の賃料を3つに分ける
収支を作る際は、現行賃料をそのまま延長せず、少なくとも次の3つに分けます。
A|継続可能性が高い賃料
契約、入金、営業実態、市場性を確認し、一定期間の継続が見込める収入です。
B|条件変更の可能性がある賃料
更新、再契約、増減額交渉、契約終了が近く、条件が変わる可能性がある収入です。
C|再募集前提で見る賃料
退去予定、長期空室、相場乖離、営業実態の懸念などがあり、現行条件を継続前提にしにくい収入です。
この分類により、現況収入と安定稼働後の収入を分けて考えられます。
初心者が注意したい見方
- 満室だから安全とは限らない
- 長期契約だから収入が確定しているとは限らない
- 相場より低い賃料がすぐ増額できるとは限らない
- 相場より高い賃料が今後も続くとは限らない
- 空室を満室想定へ置き換えるだけでは足りない
- レントロールだけで契約条件は確定しない
- 契約上の賃料と実際の入金は別に確認する
まとめ
レントロールは、物件の現在の収入を一覧にした資料です。しかし、取得判断で確認すべきなのは、合計額だけではありません。
区画ごとの賃料、契約期間、解約条件、テナント集中、空室、保証金を確認し、契約書や入金資料と照合します。
そのうえで、現況収入がどこまで続くか、退去や再募集で何が変わるかを収支へ反映します。
次は、レントロールから得た収入と物件運営費を使い、NOIを検証する方法を整理します。


