不動産仕入れは、売却物件を探して買うだけの仕事ではありません。
物件情報を集め、収益性やリスクを検証し、取得後の運用方法と出口まで組み立てたうえで、会社として購入すべきかを判断する仕事です。
この記事では、事業用不動産の仕入れ担当者が行う業務を、未経験者向けに順番に解説します。
不動産仕入れとは
不動産仕入れとは、自社で保有・運用・再販売・開発する不動産を取得する業務です。
会社によって「仕入れ」「アクイジション」「物件取得」など呼び方は異なります。アクイジション(Acquisition)とは、取得・買収という意味です。
主な対象には、次のようなものがあります。
- オフィスビル
- 店舗・商業ビル
- 賃貸マンション
- ホテル
- 倉庫・物流施設
- 開発用地
- 借地権や共有持分
- 不動産を保有する法人の株式
仕入れ担当者には、物件そのものだけでなく、賃貸借契約、法令上の制限、修繕、収支、融資、取得後の運用まで含めて判断する力が求められます。
不動産仕入れの基本的な流れ
A.取得基準を理解する
最初に、自社がどのような物件を取得するのかを理解します。
取得基準は「クライテリア」とも呼ばれ、それぞれの会社ごとの考えに基づきます。会社によっては明確には設定していないことも…。一般的には次のような条件で整理されています。
- 対象エリア
- 物件用途
- 築年数
- 価格帯
- 利回り
- 規模
- 権利関係
- 空室率
- 保有期間
- 取得後の運用方針
取得基準が曖昧なまま営業すると、物件情報を集めても判断できません。仕入れ担当者の最初の重要な仕事は、自社が買える物件を自分の言葉で説明できるようになることです。
B.物件情報を集める
物件情報は、主に不動産仲介会社、金融機関、士業、管理会社、物件所有者などから集めます。
単に「物件があれば紹介してください」と依頼するだけでは、良い情報は集まりにくいのが実情です。
相手に伝えるべき内容は、次のとおりです。
- どのエリアを探しているか
- どの用途・規模を買えるか
- 価格帯はいくらか
- 空室や権利関係に問題があっても検討できるか
- どの程度の期間で判断できるか
- 融資条件が整わなくても取得できるか
相手が紹介すべき案件を判断できるように、取得基準を簡潔に伝えることが重要です。
C.初期検討で候補を絞る
物件情報を受け取ったら、すぐに詳細調査へ進むわけではありません。まずは短時間で初期検討を行います。
確認する主な項目は次のとおりです。
- 所在地と最寄り駅
- 駅の利用者数
- 商圏と人の動線
- 接道状況
- 建物用途と築年数
- テナント構成
- 現行賃料
- 空室状況
- 土地・建物面積
- 用途地域、容積率、建ぺい率
- 売却希望価格
- 想定される取得諸費用
この段階では、検討を続ける価値があるかを判断します。すべての物件を細かく調査するのではなく、早い段階で見送る判断も必要です。
現地調査で確認すること
資料上の数字が良くても、現地を見ると評価が変わることがあります。
現地調査では、主に次の点を確認します。
- 駅から物件までの動線
- 視認性
- 建物の間口
- 周辺店舗と競合状況
- 昼夜や平日・休日の人通り
- 建物の劣化状況
- エントランスや共用部の印象
- エレベーターの有無
- テナントの営業状況
- 空室の使いやすさ
- 周辺賃料と募集状況
特に店舗や事務所では、同じ駅距離でも人の流れ、道路の渡り方、間口、階数によって賃料やリーシング難易度が大きく変わります。
収支を検証する
取得価格の判断では、表面利回りだけでなく、実際に残る収益を確認します。
重要な指標の一つがNOIです。NOIは「Net Operating Income(ネット・オペレーティング・インカム)」の略で、日本語では営業純利益と呼ばれます。
概算では、次のように計算します。
年間賃料収入-運営費用=NOI
運営費用には、管理費、修繕費、固定資産税、保険料、共用部の水道光熱費などが含まれます。
さらに、次の変化も検証します。
- 空室が発生した場合
- 賃料を増額できた場合
- テナントを入れ替えた場合
- 大規模修繕が必要になった場合
- 金利が上昇した場合
- 数年後に売却する場合
取得時点の収益だけでなく、保有中のキャッシュフローと売却時の価格まで考える必要があります。
DDでリスクを確認する
取得候補になった物件は、DDを行います。
DDは「Due Diligence(デュー・ディリジェンス)」の略で、取得前に行う詳細調査です。
主な調査項目は次のとおりです。
- 登記上の権利関係
- 賃貸借契約
- 滞納や敷金
- 建築確認・検査済証
- 違法増築や用途変更
- 修繕履歴
- 建物設備
- 土壌汚染やアスベスト
- 境界
- 固定資産税
- 訴訟や紛争
- テナント退去の可能性
問題が見つかった場合は、取得を中止するだけでなく、価格調整、契約条件、売主負担での是正などによって対応できるかを検討します。
社内承認から契約まで
検討内容がまとまったら、社内の投資判断に必要な資料を作成します。
一般的には、次の内容を説明します。
- 物件概要
- 立地評価
- 賃貸状況
- 取得価格
- 収支
- 資金調達
- リスク
- 取得後の運用計画
- 売却方針
- 想定利益
社内承認後、買付証明書の提出、条件交渉、売買契約、決済へ進みます。
仕入れ担当者は、売主や仲介会社だけでなく、社内の管理部門、工事部門、金融機関、弁護士、司法書士などとも調整します。
取得後の仕事
仕入れは、物件を取得して終わりではありません。
取得時に立てた計画を実行するため、PMやAMと連携します。
PMは「Property Management(プロパティ・マネジメント)」の略で、建物管理、テナント対応、賃料回収、リーシングなどの物件運営を担います。
AMは「Asset Management(アセット・マネジメント)」の略で、物件の収益管理、事業計画、資金管理、売却判断などを担います。
会社の体制によっては、仕入れ担当者が取得後の賃料交渉、テナント誘致、修繕、売却まで担当することもあります。
未経験者が最初に身につけること
未経験者は、最初から複雑な収支計算や契約交渉を完璧に行う必要はありません。
まずは、次の順番で身につけると実務につながりやすくなります。
- 自社の取得基準を説明できるようにする
- 物件概要書を正確に読めるようにする
- 住所から立地を調べる
- 現地で確認すべき項目を覚える
- 賃料収入と運営費用を整理する
- 賃貸借契約の基本を理解する
- 取得後の運用方法を考える
- 検討結果を短く説明する
重要なのは、知識を増やすだけでなく、一つの物件について「買う・買わない」とその理由を言葉にすることです。
まとめ
不動産仕入れは、営業、物件評価、契約、収支計算、運用計画を組み合わせた仕事です。
基本的な流れは、次のとおりです。
- 取得基準を理解する
- 物件情報を集める
- 初期検討を行う
- 現地を確認する
- 収支とリスクを検証する
- 社内承認を得る
- 契約・決済を行う
- 取得後の運用につなげる
未経験者は、まず自社の取得基準と物件検討の順番を理解することから始めてください。判断の型を身につけることで、物件情報を見る速さと精度が徐々に上がっていきます。

